75. 偽物について(その二十七)  中心の錆

前回に引き続き、中心の錆の付き方について述べていこうと存じます。前回は拵や白鞘の柄の内部の掻込の状態が原因で中心に部分的に錆がつき、手入をしないで長年放置しておくことで、やがて中心の表面が部分的に深く朽込んでいき、その錆と朽込が少しづつ拡がっていく事を述べました。

では(B)・(C)を見て下さい。(B)は中心の表面には余り錆や朽込がありませんが、中心尻の近くと中心尻には錆による朽込がかなりみられます。こうした状態、つまり、中心の刃方の部位にどうして朽込や錆込が多く出来るのかというと、柄の構造と作り方にあるからです。

拵の柄でも、白鞘の柄でも構造は一緒で、予め中心の半分(表裏)づつの形を彫り込(掻込)んだ二枚の木片(柄下地)を貼り合わせて作ります。つまり、二枚の柄下地にはさみ込まれる中心と同じ体積(嵩・かさ)の約半分づつを各々の柄下地に彫り込む(削りとる)のですが、これを掻込(かきこみ)といいます。

併し、中心の棟は厚いのですが刃方の厚みは棟に比べてかなり薄く、1ミリ前後くらいになりますので、そんな薄い掻込には技術を要します。端的にいいますと、柄のどこかで柄下地と中心(表面)が接触しているし、接触していないと柄がガタつき実用にはなりません。これが刃方の部位で錆込やすくなる理由で、中心尻も同様です。中心尻をキチッと掻込ないとガタつきますから、どこかで接触していなければなりません。

従って(B)では中心尻とその近くの刃方に錆込が発生するという事なのです。同じことは(C)の方でも起こっているのがよくわかって頂けると存じます。普通、愛刀家・研職の方は刀身の”鞘あたり”を気にしますが、”鞘あたり”は刀身に錆が発生する原因となります。中心の場合は”鞘あたり”ではなく”柄あたり”と考えて下さい。

さて、(B)をよく見て頂くともう一つ錆が多くついている所がありますね。そうです。目釘孔の周囲です。勿論、錆は何らかの物と接触しなければ発生しにくいのですから、目釘孔の周囲にはどうして発生しやすいのか、それは大名鞘(だいみょうざや・白鞘)以外には目釘を挿入しますから、この目釘が原因であります。目釘を抜いて中心を柄から脱して手入れをしないで長年放置してしまう。これによって目釘孔の周囲に錆込が出来やすくなります。

又、(C)の鎺元辺に錆がついているのが押型で確認出来ますが、これは鎺を長年つけたままか、若しくは白鞘で柄と一体になった木鎺のための錆込と思われます。因みに、刀が錆身で発見されると、中心以外には必ず切先部分が朽込でボロボロになっているのが殆んどですが、これは前述の中心尻と全く同じ理屈です。切先は薄く、掻込がむつかしい、切先の棟辺で刀身をほんの少し浮かして固定する鞘の構造から、至極当然の結果であります。

皆様、何卒、刀の手入れはおこたらぬ様にお願い致します。但、中心に油を塗るのは厳禁です。古い油は酸化(錆)のもとです。

平成二十八年二月 文責 中原 信夫