68. 偽物について(その二十)  和泉守国貞の偽物

今回は前回の草書銘「国貞」の銘字について触れておきたい。前回は、(49)図が偽銘である事を中心の鎬筋の歪(ゆがみ)曲(まがり)から事実を述べたのであるが、今回は銘字について触れて、前回の補強をしておきたい。草書銘は二代国貞(真改)が若年の時に刻った銘であるが、今の所、正保二年~四年の年紀があるだけのようである。

さて、前回の(49)-①図を今一度みて頂きたい。「国」の第2画目の横棒から曲がって縦棒になる所をみると、明らかに横棒の終わりの所からタガネの角度を変えて、縦棒に移る最初の所で、タガネが一旦止まっているので銘字の太さが違っている。

では(49)-②図の同じ所をみて下さい。全くそういう感じはなく、スムーズに横から縦にタガネを運んでいますので、銘字の太さに全く差はありません。併し、(49)-①図では、2画目の縦棒も、少しですがぎこちなく曲がっていて、力が不足しています。(49)-②図と比較して下さい。

さらに(49)-①図で「国」の第1画目の縦棒をみて下さい。縦棒は下1/3程の所で逆「く」の字形のように曲がっています。併し、(49)-②図ではそうならずにゆるやかな「く」字形状にスーと力強く下までいって、タガネを止めずに横棒につづいています。他にも色々とありますが、殊に「国」の第1画目に続く跳と、第2画目に続く跳が真正面に向かいあうという見所であります。(49)-①図(49)-②図とを比較してみて下さい。(49)-②図の形状が正真であります。(49)-①図が真正面に向かいあっていない。

さて、(49)-①図の「年」という銘字に注目して下さい。(49)-②図の「年」はまるで”手”の字になっていまして、表裏の草書体の銘字と見事に調和しています。併し、(49)-①図の年紀全体は楷書となっていまして、殊に「年」をみますと(49)-②図の「年」と全く相違していますし、(49)-①図は全体の調和がとれていません。

因みに(49)-③図をみて下さい。この(49)-①図の「年」と全く同じ「年」を刻っています。(49)-③図は寛永三年紀ですから、二代国貞(真改)は寛永七年の出生とされているので、(49)-③図は二代国貞出生以前となり、初代国貞が使用していた独特の銘字でありますから、いくら代銘とはいっても、同じ銘字は使いません。従って、(49)図は中心の鎬筋の状態といい、今回の銘字における相違といい偽銘であるという結論になってきます。因みに、真改は若年から天才的にタガネ(銘字)が上手でありますから、前述の銘字の見方が出来ます。

但、この(49)図はよく掲載されるものでありまして、戦前からもよく引用掲載されています。尚、この草書銘については福永酔剣先生著『日向の刀と鐔』(刀苑社・昭和五十年刊)を参照して頂ければと存じます。

(平成二十七年六月 文責 中原 信夫)