41. 刀剣・日本刀中心の鑑別法 再刃編(その五 続・刃幅から見る古名刀の再刃)

前回引用した事例がよく理解出来なかった方々もあるかと思い、今回は一目瞭然に 理解して頂ける例を紹介してしてみたいと思う。

その前に、今迄は直刃を例にとって刃幅と刃先の曲り方(凹)との話をしたのである が、再刃は直刃ばかりではない。但、直刃の方が正確に私の考え方を理解して頂ける と感じたからであって、今回は後で乱刃のケースを紹介してみる。

因みに、何故に直刃がよく再刃されるかと言うと、土置(つちおき)が手っ取り早く 出来るのと、本来、乱刃であったのか、直刃であったのかが焼身になってしまえば解 りにくいので、一応、無難な焼入として直刃を選ぶのである。勿論、銘をみてもある 程度の元の刃文は推測がつくし、逆に直刃に土置して再刃したら乱刃になった事も十 分に考えられるし、又、その逆のケースもある。

当然、刀工は直刃を焼く場合と乱刃を焼く場合、地鉄の鍛(きたえ)や組合(くみあわ せ)を変えるのであるから、前述のような事が起こってくるのである。本来、再刃の折 は刀身に極力無理をさせないため、比較的に浅い刃文(刃幅)を焼く傾向にあるが、中 には身幅の半分以上の深い刃幅に焼いたり、又、結果的に想定外になる場合もある。

つい最近、その前者のケースをみたが、明らかに刀身全体の減り具合と刃幅が肯け ないものであった。併し、認定書は付いたのである。

では(1)の押型をみて頂きたい。刃区辺から刃先の曲り(凹み)とほぼ平行して直刃が ある。しかも、普通は刃区の下から刃文はある筈なのに、これはそうなっていない。 つまり、推測ではあるが、中心を極力焼かないように配慮したようであって、再刃の 時の温度(殊に刃区の周辺の温度)が低いと、この様な刃区ギリギリの所か、又は完全 な焼落になってしまう。従って、昔から”焼落には気をつけろ”といわれる理由である。 何故、中心を極力焼かないかは以前に述べてある事であるから、おわかりの事である。 (1)の押型は一目瞭然の再刃という事が言える。

では(2)の写真をみて頂きたい。まず中心の形状からいうと、振袖形になっているが、 一番下の目釘孔の下部あたりから刃区に至るまで、中心の刃文の線がほぼ直線状態にな っている。これはこの短刀がかなり研疲れた為に刃区がなくなり、後世に刃区を作らざ るを得なくなった結果、中心の刃方を削らざるを得なくなったのである。(この事は拙 著「刀の鑑賞」に詳しく図示説明してあるので、それも併せて参照して下さい。)中心 の形、殊に刃方の線は重要な見所でもあるので、必ず注意して見て下さい。

さて(2)では(1)と同じ程に刃先の線が棟の方へ曲って凹んでいますね。併し、直刃は その凹みに見事に平行して入っていると見えますので、これは明らかな再刃という事に なってきます。これ程歴然としていても(1)は昭和三十年後半の重要刀剣であり、(2)に も認定書が付いています。

お断りしておきますが、何も日刀保の審査にケチをつけているのではありません。こ れ程歴然とした例を何故認定・指定したのかという事です。歴然としたものでさえこう ですから、歴然としないのは、、、、、、、。

それでは乱刃の再刃を例にして説明していきたいと思います。但し、私は物理的に絶 対に不合理なものを例に出しているのであって、決して日刀保や所有者に対して特別な 感情を持って書いているのではない事をご理解下さい。

では(3)の押型をみて下さい。この短刀は乱刃ですが、一つの面白い共通事項が刃文に あります。つまり、刃文全体をみてみると刃文の谷が刃先の曲り(凹)とほぼ平行してい る事。そして、刃文の頭の所も同様に曲った刃先と平行している事です。しかも刃文が 刃区の下からあるのではなく、刃区にあります。そして、振袖中心の目釘孔の下あたり から刃方の線が刃区に向かってほぼ直線状であります。これは刃区下の中心の刃方を削 って新しく刃区を作ったために起こった事で、(2)と全く同様であります。

さらに(4)の押型をみて下さい。この短刀の鋩子はかなりかなり深く描かれているのも 不審であります。下部がこれだけ減っている(刃区の上部の刃先が凹んでいる)のに、上 の方がかくも健全でありうるでしょうか。物理的には短刀(刀でも)は切先のあたりが一 番欠損するのですから、一番欠損する部分が健全で、原型を維持しやすい下部がかなり 減るというのは、不合理そのものであります。

従いまして、この様なケースを考えますと、この短刀も勿論(1)も(2)も減った刀身に 再刃したと考えればすべての点で合点のゆくものであります。因みに(1)(2)(3)ともに 南北朝期の刀工の作であります。

次回はさらに乱刃の例を出して考えたいと思います。

(平成二十四年十月 文責 中原 信夫)