24. 押形について

 刀の中心の押形は、初心者の人でも少し慣れれば、すぐに大体はとれるようになる。但し、刀身の刃紋は中々そうはいかないので、今回は中心の押形について少し述べておきましょう。

 中心の銘やヤスリ、そして形は、薄くてやや丈夫な和紙(が理想)に石華墨(せっかぼく)でとるが、紙がズレないようにするのが第一の秘訣である。木製か竹 製の洗濯バサミで、棟区付近(ハバキ元)と中心尻近くを棟の方からはさみ、紙がゆるまないようにしていく。詳しい手法は、実際に押形をとっている人に聞く のが良いでしょう。

 さて、その中心押形の使い方、利用方法を述べます。中心の押形などに余り重点・興味をおかない向きもあるが、一応正確にとった中心押形ならば、偽物などを かなり鑑別出来るのである。普通は、現物の中心を見たら、その銘に視線と頭脳が釘付けになって、総合的な正確な判定を下せなくなる場合が度々おきる。しか も、興味は刀身の刃紋、地肌にすぐに移ってしまい、中心を精査しなくなる傾向が強い。

 例えば、銘字はキレイに鮮明に押形に出ているのに、逆にヤスリが全くわからない、というか不鮮明である。この様なケースはまず疑ってみなければいけないの である。ヤスリが無いか、よく見なければわからないのに何故に銘だけが鮮明に出ているのか。これは理屈に合わない。使用する和紙を薄いとしたのは、こうし た点を考えて、薄い紙なら細かくてやや弱いヤスリも現状を必ず押形にとれるからである。又、中心の表面(全体に)の朽ち込みが多くてヤスリが殆ど出ていな いのに、銘は逆にある程度よく押形に出るケースもあるが、これなども中心の仕立方法から言うと大きな疑問である。

 ヤスリの角度にしても押形ならば一目瞭然にその角度を見る事が出来るので、チェックしやすい。現物では見過ごす、ヤスリの角度が整っていないのも見つけられる事も多い。

 さらに、中心の棟角の線のカーブを中心尻から棟区に向かって目線で順次追いかけていくと、不自然なカーブ(線)が押形に出ているケースもあり、この時はど の部分に不自然なカーブがあるかをみたら、銘字の部分にのみ出ている場合があり、これは従来の銘を消して、その部分に偽名を追っかけていれたとの疑いを持 つべきである。この場合、現物の中心の棟の厚みを、中心尻から棟区に向かって詳しく見ると、銘字の所が凹んでいた、というようなケースもよくある。

 中心押形で、全面的に中心のヤスリがみえないで、中心の表面が凹凸している在銘は、再刃の疑いを第一に考えるべきである。但し、上の刀身との関係を十二分 に含めて精査し、結論すべきものである事は強調しておきたい。何よりも、中心の錆・保存状態に異常をきたしているのは、何らかの後天的要因によるものと考 えるべきで、中心押形がよくそれを現出しているのに、それを考えようとしない風潮が強い。銘字が鮮明に出るようなら、ヤスリも同様に、それなりに出るべき が本来の姿で、中心の表面もなめらかである筈である。そうした点も含めて今一度、中心の押形を見直してくれれば、新たな点に気づく事も多々あると思いま す。
因みに、石華墨で中心押形をとるのではなく、印刷用のインクを中心に塗ってローラーでとる方法は、百害あって一利のない方法で、中心の錆色を著しく損傷する悪い方法であります。中心の錆色は一番大事な時間の経過と伝来を証明する唯一、最高のものです。

(文責 中原 信夫)