80. 偽物について(その三十二)  再刃の刀

では中心の押型(A)(縮小)を見て頂きたい。中心の刃方の形(線)を見て下さい。三つある目釘孔の一番下の孔の右側(矢印)から、現在の刃区辺りまでが殆んど直線状となっていますが、この様な現象は過去に刃方を棟の方へかなり削りとったために起こったものですから、元来の中心は今よりもかなり太かった(幅広であった)筈です。

正確にいうと、直線状より、棟の方へより喰い込んだ状態の線となっています。この理屈を補足すると、目釘孔の位置と大きさであります。この三つの孔の内、どれが生孔でありましょうか。というか、この中心に生孔があると仮定して、どれが生孔でしょうかという事であります。

一番上でしょうか。併し、その孔は小さく、孔の周囲にバリが立っているのを示している曲線状が鮮明に出ていますし、銘字にひっかかっていますから、この孔ではありません。二番目でしょうか。これも違います。上の孔よりもまだ小さく、銘字にひっかかっていますから、これも考えられません。残りは一番下の孔ですが、現在の刃方の方へかなり偏ってあけられています。併し、この孔が孔の周囲の状態(バリが立っていない)からみて生孔の可能性は上の二つよりはほんの少し残されています。

ではこの一番下の孔の辺と下部を見て下さい。中心の表面の錆状態がよくあらわれています。そこにはヤスリ目もなく、表面が凹凹状になっているのがわかりますから、これは火に罹った事をよくあらわしています。併し、「近村上」の三字銘、殊に「近村」の二字のあたりには何となくヤスリ目らしき所作が見えますし、何といっても凹凹状態のものではない状態となっているのは全く考えられません。となると、この銘字そのものに?がつくことになります。「近」の上部の辺は中心の身幅が細くなっていますが、これは少し磨上をした時に削ったと抗弁しても、現在の刃区のすぐ下から出る移状の所作が描いてある点から、これは磨上たものではなく殆んど生中心という事になります。

従いまして、現在の錆際の下部は砥石で加工されキレイに整えられた状態となり、鎬筋も鮮明な点からわかることは刀身は相当に減っている事を示していて、さらに、中心の凹凹になった錆状態と合わせて考えられる可能性としては、再刃と断定するしかないのであります。刃区上の刃先と並行した刃文は?の典型でありまして、どこをみても再刃としかいいようのない作例であります。

では同書の「しかし茎にみる草書がかる大字太鏨の三字銘は堂々として貫禄十分であり、特に鮮明であるのは火災で浅く火をかぶって上肌が薄く剥がれたために銘が浮きあがったためであろう。この例は、近い昔の関東大震災で焼身となったものに実見しているところである。」(『鑑刀日々抄』本間順治著)とあるが、”茎にみる草書がかる大字太鏨の三字銘は堂々として貫禄十分であり、特に鮮明であるのは火災で浅く火をかぶって上肌が薄く剥がれたために銘が浮きあがったためであろう。”としているが、貫禄が十分であろうがなかろうが、銘字の中(字画の中)や周囲の状態が他に比べ(中心の下部、一番下の孔より下部)キレイ過ぎるのは不審であり、銘があろうとなかろうと、火災の熱は中心全体にまで伝わり、この銘字部分も凹凹となり、タガネ枕もとれ、銘字に力がなくなる。この点も本欄で既述してあるので参照して下さい。

さらに、著者はこの銘を正真とみているが、私は?であるとみる。その理由は前述の通りであるが、もう一ついうと”上”は”たてまつる”という意味であるが、その「上」の銘字の状態に比べて「近村」二字が鮮明すぎる点である。まさか火災の高熱が近村だけを避けた訳でもないだろう。つまり、偽銘(追銘)の可能性がある。そして「近村」銘は二つの小さな孔を逆に意識した感がみられる。それは、上の二つの孔が時代的に全く考えられない小ささ、位置であるからで、それらの孔を意識したのなら、これが追銘の証拠の一つにもなるのである。

つまり、結論は本太刀が再刃である事が著者と私の唯一の共通点。併し、その再刃の見所の説明が前述の通り方向の間違った観念論であり、読者に誤解を与えるものです。

因みに旧御物である「宗近村上」と四字銘の太刀の中心押型(B)を見て下さい。孔が一つですからこの孔が生孔となるのですが、私が刃方の所に矢印を入れましたが、そこから上(刃区)にむかって刃方の線が直線であり、これを元来の線に復元してみて下されば、私の主張がおわかり頂けるかと存じます。勿論、この四字の内「宗」は後刻であり、元来は”近村上”とあったとされていますが、本太刀(三字銘)の銘字の状態とこの四字銘の内の三字銘を比較して下さいますと、著者の説明の如く貫禄十分とはいえないものであり、三字銘が小さい孔の二つをいかに意識しているかはすぐにわかります。それから四字銘の太刀(B)には鮮明に鎬筋が押型に出ています点も注目に値します。三字銘の太刀(A)の銘字の部分にはそうした所作はありません。元来は鎬筋があったのに熱で鎬筋が崩れ去ったのなら、銘字ももっと崩れなければなりませんから、どう抗弁しても三字銘に○を与える事は出来ないと考えるのが合理的でありましょう。

では最後に(C)を見て下さい。矢印から上が直線状となり相当刀身が減っていると思われます。但、これを見ると下の孔が生孔と一応仮定出来ます。(A)と違って生孔の下あたりには鎬筋があるが、銘字あたりより下の錆状態(表裏)をみて下さい。これが正常な伝来を示すものでしょうか。又、刃先と平行した刃文にも?がつきますので、(C)も再刃と見るべきものであり、さらにそれよりひどい状態が(A)であるという事になります。

尚、太刀の中心の原形については最近、本欄で既述済でありますので、参照して下さい。

平成二十八年六月 文責 中原 信夫